
「もうWordPressはオワコンだよ」
行きつけのバーで、フリーランスのエンジニア仲間がハイボール片手にそう言った。彼の目は、新しい技術の話をする時特有の、キラキラした光を放ってた。
「今はJamstackでしょ。表示速度もセキュリティも段違い。WordPressなんて、もうレガシーシステムだよ」
僕は相槌を打ちながら、心の中でちょっとだけ反発してた。「本当にそうかな?」って。
確かに、ここ数年「WordPressは古い」「もうすぐ廃れる」っていう声を、エンジニア界隈で本当によく聞く。SNSでも、技術ブログでも、まるで合言葉のように。
でもさ、本当にWordPressは廃れていく運命が決まってるんだろうか?

僕自身、WordPressで飯を食ってきた人間として、この問いは無視できない。だから今日は、あえてこの過激なテーマに、僕なりの答えを出してみようと思う。これは、単なる技術論じゃない。僕たちの仕事の未来に関わる、大事な話だ。
WordPressは本当に「時代遅れ」なのか?
まず、WordPressが「時代遅れ」だと言われる理由を具体的に見ていこう。これを知らないと、ただの感情論になっちゃうからね。
| 項目 | WordPressの問題点 | モダンな技術との比較 |
|---|---|---|
| アーキテクチャ | モノリシック(全部入り) | マイクロサービス、ヘッドレス |
| 言語 | PHP(古いコードベースが残存) | JavaScript (Node.js, React), Go, Python |
| データ取得 | 動的(アクセス毎にDB問い合わせ) | 静的(ビルド時にHTML生成、CDN配信) |
| パフォーマンス | プラグイン多数で遅くなりがち | サーバーレスで高速、スケーラブル |
| セキュリティ | 脆弱性が出やすく、標的になりやすい | APIベースで攻撃面が少ない |
こうして見ると、確かにWordPressは古く見える。特に、表示速度とセキュリティの面では、Jamstackのようなモダンなアーキテクチャに軍配が上がるのは仕方ない。
僕の友人なんて、クライアントの要望に応えようとプラグインを20個も30個も入れた結果、管理画面が真っ白になって、半泣きで僕に電話してきたことがあった。「プラグインの沼にハマった…」ってね。結局、一つ一つプラグインを無効化して原因を特定するのに丸一日かかった。こういう話、WordPressを触ってると本当によく聞く。
なぜWordPressは「オワコン」と呼ばれるのか?
まず、なんでこんなに「オワコン」扱いされるのか。その理由を、彼らがよく言う主張から整理してみよう。正直、耳が痛い話も多い。
理由1:設計が古くて、とにかく遅い
これが一番よく言われることかな。WordPressは2003年に生まれた、言ってみればIT業界の「ご長寿」だ。基本的な設計は、その頃から大きくは変わってない。
ユーザーがページにアクセスするたびに、データベースに問い合わせて、PHPがプログラムを実行して、HTMLを生成して…っていう「動的生成」の仕組み。これが、今の時代には「遅い」って言われちゃうわけ。
最近主流のJamstack(JavaScript, APIs, Markup)みたいな技術は、あらかじめ完成されたHTMLファイルをサーバーに置いておくだけの「静的サイト」。そりゃ表示速度で勝てるわけないよね。例えるなら、注文のたびに厨房で一から料理を作るレストランと、作り置きの弁当を売る店くらいの差がある。
理由2:セキュリティがガバガバ(って思われてる)
「WordPress = ハッキングされやすい」っていうイメージ、根強いよね。実際、世界のWebサイトの4割以上がWordPressで作られてるから、攻撃者のターゲットになりやすいのは事実。母数が大きいから、被害報告も目立つ。
特に、プラグインやテーマの脆弱性を突かれるケースが後を絶たない。古いバージョンのまま放置してたり、怪しい海賊版テーマを使ってたり…まあ、これはWordPressが悪いっていうより、使う側の問題も大きいんだけどね。
でも、攻撃者からすれば、そんなの関係ない。「WordPress」というだけで、格好の的なんだ。
昔、僕が管理してた小さなアフィリエイトサイトが、海外からのブルートフォースアタックで乗っ取られて、サイト内に大量のスパムページを生成されたことがある。Googleの検索結果が、見たこともない外国語のページで埋め尽くされた時の絶望感は、今でも忘れられない。あれは本当に血の気が引いた。
実際に、セキュリティ会社のレポートを読むと、ハッキング被害に遭ったCMSサイトの9割以上がWordPressだった、なんていう衝撃的なデータもある。もちろん、これはWordPressのシェアが高いから当然の結果とも言えるんだけど、イメージが悪くなるのも無理はない。
理由3:PHPっていう言語がもう古い
エンジニアの世界では、言語にも流行り廃りがある。で、WordPressを動かしてるPHPっていう言語は、残念ながら「イケてる」言語とは言えない。どっちかっていうと「昔ながらの」って感じ。
今はJavaScript系の技術(ReactとかVueとか)が全盛期。イケイケの若手エンジニアは、みんなそっちをやりたがる。PHP、特にWordPressの古いコード作法は、彼らにとって「触りたくないレガシーコード」に見えちゃうわけだ。

でも、本当にWordPressは死ぬのか?現実を見てみよう
ここまで聞くと、「ああ、やっぱりWordPressはもうダメなんだ」って思うかもしれない。でも、ちょっと待ってほしい。現実は、そんなに単純じゃないんだ。
現実1:圧倒的すぎるシェア。王者はまだ死なない
まず、数字を見よう。2025年になっても、世界のWebサイトの約4割はWordPressで作られてる。CMS(コンテンツ管理システム)っていう市場に限れば、6割以上。2位のShopifyを大きく引き離して、ぶっちぎりのトップ。
これって、とんでもないことだよ。インターネットの世界で、これほど一つの製品が市場を独占してる例は他にない。この巨大な「WordPress経済圏」は、そう簡単にはなくならない。
「オワコン」って言ってるのは、主に最先端を追う一部のエンジニア。でも、世の中の大多数の企業や個人ブロガーにとっては、今もWordPressが第一選択肢なんだ。
現実2:「WordPressに代わる決定打」が存在しない
じゃあ、WordPressの代わりに何を使えばいいの?って話になる。ここで、みんな口ごもるんだよね。
- ノーコードツール(Wix, Studioなど):手軽だけど、デザインや機能の自由度が低い。「ここにボタンを置きたいのに!」みたいな、かゆいところに手が届かないことが多い。
- ヘッドレスCMS(microCMS, Contentfulなど):これはエンジニア向けの選択肢。表示は速いけど、構築の難易度が高いし、月額数万円とか普通にかかる。個人ブログで気軽に使えるもんじゃない。
- 他のCMS(Shopify, Drupalなど):それぞれ得意な分野が違う。ShopifyはEC特化だし、Drupalは大規模サイト向け。ブログや企業のコーポレートサイトをサクッと作るなら、やっぱりWordPressの手軽さには敵わない。
結局、「安くて、自由度が高くて、素人でもそこそこ使えて、情報も多い」っていう、一番バランスの取れた選択肢が、今もWordPressなんだ。
この「ちょうどよさ」が、WordPressの最大の強み。例えるなら、家庭料理のレシピみたいなものかもしれない。プロのシェフから見れば、手順は最適化されてないし、もっと美味しい作り方もあるだろう。でも、誰でも手軽に、そこそこ美味しい料理が作れる。WordPressも同じで、Web制作のプロじゃない普通の人たちが、自分のビジネスや表現のためにWebサイトを持ちたいと思った時、これほど最適なツールは他にないんだ。この現実を無視して、「WordPressはオワコンだ」と切り捨てるのは、あまりにも視野が狭いと言わざるを得ない。

現実3:膨大な資産とエコシステム
WordPressには、20年かけて積み上げてきた膨大な「資産」がある。数万個のプラグイン、数え切れないほどのテーマ。これらを使えば、プログラミングの知識がなくても、ECサイトから予約システムまで、大抵のことは実現できちゃう。
この「エコシステム」の強さは、他の追随を許さない。何か困ったことがあっても、ググれば大抵の答えは見つかる。日本語の情報もめちゃくちゃ多い。この安心感は、他の新しい技術にはない、WordPressだけの特権だ。
結論:WordPressは「廃れる」んじゃなく「棲み分ける」
ここまで話してきて、僕の考えは固まった。
WordPressは、廃れない。少なくとも、僕たちが現役でいる間は、仕事がなくなることはないだろう。
ただし、その役割は確実に変わっていく。昔みたいに「Webサイトなら、何でもかんでもWordPress」っていう時代は、もう終わりつつある。
これからは「棲み分け」の時代だ。
- 表示速度や最先端の体験が最優先されるWebサービス → JamstackやヘッドレスCMS
- 大規模なECサイト → Shopify
- 手軽に始めたい個人のポートフォリオ → ノーコードツール
- そして、大多数の企業のコーポレートサイト、メディア、個人ブログ → WordPress
WordPressは、「Webサイトの王様」から、「特定分野の頼れるスペシャリスト」に変わっていく。そう、まるでOSの世界でWindowsが今も使われ続けているように。

だから、僕たちWeb制作者が考えるべきは、「WordPressはオワコンか?」っていう不毛な議論じゃない。「この案件に最適な技術は何か?」を、常に問い続けることだ。
WordPressの強み(更新のしやすさ、コスト、カスタマイズ性)を活かせる案件では、自信を持ってWordPressを提案する。逆に、それが最適じゃないなら、勇気を持って他の技術を選ぶ。その見極めができることこそ、これからのプロフェッショナルの価値になる。
WordPress自身の進化も忘れてはいけない
「WordPressは古い」と言う人たちが見落としがちなのが、WordPress自身も進化し続けているという事実だ。
ブロックエディタ(Gutenberg)の登場
2018年に登場したブロックエディタは、WordPressの編集体験を根本から変えた。それまでの、まるでWordのような旧式の編集画面から、直感的にブロックを組み合わせてページを作れるようになった。これは、WixやStudioのようなノーコードツールへのWordPressからの回答だ。
フルサイト編集(FSE)
さらに、ヘッダーやフッターまでブロックで編集できるフルサイト編集機能も登場した。これにより、プログラミングの知識がなくても、サイト全体のデザインをより自由に、柔軟に変更できるようになった。まだ発展途上ではあるけど、WordPressが過去の遺産に胡座をかいているわけではないことの証明だ。
REST APIとヘッドレス化
WordPressは、REST APIを標準で搭載している。これを使えば、WordPressを「ヘッドレスCMS」として利用することも可能だ。つまり、管理画面はWordPressを使いつつ、フロントエンドはReactやVue.jsのようなモダンな技術で構築する、という「いいとこ取り」ができるわけ。
「WordPressはモノリシックだ」という批判は、もはや完全には当てはまらない。WordPressは、モダンな開発フローにも対応できる柔軟性を、すでに手にしているんだ。
もちろん、まだまだ課題は多い。ブロックエディタの使い勝手は完璧じゃないし、フルサイト編集も本格的に普及するには時間がかかるだろう。でも、大事なのは、WordPressが「変化しようとしている」という事実だ。巨大な船がゆっくりと方向転換するように、WordPressもまた、時代の荒波に対応しようと必死にもがいているんだ。
よくある質問に、僕なりに答えてみる
Q. 今からWordPressを勉強する価値はありますか?
大いにある。断言する。Web制作で稼ぎたいなら、WordPressは必須科目。だって、世の中の案件の半分以上がWordPressなんだから。これを避けて通るのは、あまりにも非効率だよ。
ただし、昔みたいに「テーマをカスタマイズできます」だけだと単価は上がらない。これからは、WordPressの内部構造を理解し、パフォーマンスチューニングができたり、REST APIを使って外部サービスと連携させたりできるスキルが求められる。深く学べば学ぶほど、価値は高まるよ。
Q. WordPressエンジニアの将来性は?
ただWordPressを「使える」だけだと、正直厳しいかもしれない。これからは、WordPressを深く理解した上で、他の技術(JavaScriptとか、サーバーサイドの知識とか)も組み合わせられる人が強くなる。例えば、WordPressをヘッドレスCMSとして使って、フロントはReactで組む、みたいな。そういう「ハイブリッド」なスキルが求められるようになるはず。
Q. WordPressのセキュリティ問題、どう考えればいい?
「WordPressは危ない」んじゃなくて、「危ない使い方をしてる人が多い」だけ。車の運転と同じだよ。ちゃんとメンテナンスして、交通ルールを守って、安全運転を心がければ、事故は防げる。サーバー選び、適切なプラグイン選定、定期的なアップデート。基本をちゃんとやれば、WordPressは十分に安全なプラットフォームだ。

王者の未来は、僕たちの手の中にある
バーで語っていた友人は、最近、WordPressの案件もまた受け始めたらしい。「クライアントの要望を一番叶えられるのが、結局WordPressだったりするんだよね」って、少し照れくさそうに笑ってた。
そう、WordPressは死なない。僕たちが殺さない限り。

「古い」「遅い」「危ない」っていうのは、半分は事実だけど、半分は僕たちの怠慢が生んだ幻想でもある。最新のPHPバージョンを使い、パフォーマンスを意識したテーマを作り、セキュリティの基本を守る。僕たち開発者がWordPressを正しく進化させていけば、この巨大なプラットフォームは、まだまだ輝き続けることができる。
WordPressが廃れる運命にあるとしたら、それは技術的な問題じゃない。僕たちが、それを使うことを諦めてしまった時だ。
だから僕は、これからもWordPressを使い続ける。その可能性を信じて、その未来を、僕自身の手で良くしていくために。

「うちのサイト、今どのくらい安全なんだろう?」
そんな疑問を持った方は、まずセキュリティ診断を受けてみるのもいいかもしれない。最近では、30秒ほどでサイトの安全性をチェックできる無料診断サービスもある。暗号化の設定やプラグインの脆弱性、情報漏れのリスクなど、気になるポイントを一通り確認できる。
WordPressセキュリティ診断 https://rescue-wordpress.com/
実は、毎日100サイト以上がハッキングの被害に遭っているという現実がある。「まさか自分のサイトが狙われるなんて」と思っていても、被害は突然やってくる。
早めに問題を見つけて対処しておけば、大きなトラブルを未然に防げる。まずは自分のサイトの「健康診断」から始めてみませんか?