サーバー移行の見積りを2社から取ったら、片方が1万円で、もう片方が15万円だった。桁が違うので、どちらかが間違っているように見えます。ところが実際には、両方とも正しい金額であることのほうが多いのです。「移行」という一語が指している作業範囲が、見積書ごとにまるで違うからです。ここでは、これまでサーバー移行として対応した39件の実額を並べたうえで、金額が何によって決まっているのかを分解します。相見積もりを前にして、どちらが妥当なのか判断がつかないという状況を想定して書きます。
同じ「1サイトの移行」でも、金額が5倍違う
移行の金額を決めているのは、サイトの見た目でもページ数でもありません。効いてくるのは、移すものの範囲、接続方式、切り替えの難易度、そして本数の4つです。
もっとも大きいのが範囲です。「サイトを移す」と言っても、Webのファイルとデータベースだけを運ぶのか、メールボックスも移すのか、ドメインの管理会社ごと移管するのか、SSL証明書を張り直すのか、DNSのレコードを設計し直すのか。EC-CUBEで動く物販サイトを同じ事業者の上位プランへ移した案件は10,000円でしたが、これは開発用のサブドメインを対象外にしたうえで、メールの受信を外部サービスへ転送していたため移行対象から外せたからです。同じサイトでもメールを含めれば金額は動きます。
接続方式も見積りを大きく揺らします。移行元と移行先の両方でSSHが使えれば、rsync や tar でサーバー間の直接転送ができます。SFTPしか使えないと、いったん手元のPCへ全部落としてから再アップロードする形になり、100GB規模では所要時間が桁ひとつ変わります。転送にかかる時間はそのまま作業時間なので、ここが金額に直結します。見積りの前に接続方式を確かめない相手は、その不確実性をリスク分として上乗せするか、あとで範囲の話になるかのどちらかです。
切り替えの難易度は、ドメインをどこで管理しているかでほぼ決まります。DNSのゾーン編集ができる管理画面なら、新しいサーバーへデータを載せてからAレコードを向け、最後にネームサーバーを変更する、という順番が取れます。この順番であれば、表示が止まる時間はほとんど生じません。ゾーン編集ができず「ネームサーバーの変更のみ」という管理画面の場合、切り替わるタイミングを自分で選べないため、止まる時間を約束できなくなります。
本数は素直に効きます。ただし2本目以降は1本目より安くなるのが普通です。手順が固まっているぶん、確認と実行にかかる時間が短くなるからです。
39件の実額は、どこに固まっているか
サーバー移行として対応した39件を、金額帯で並べ直したものです。ドメイン移管だけの案件から、28サイトを一括で移した案件まで含みます。
| 金額帯 | 件数 | その帯に入っている中身 |
|---|---|---|
| 1万円未満 | 5件 | ドメイン移管のみ、設定変更のみ、同じ環境の中での移動 |
| 1万円台 | 20件 | 1サイトの移行。ファイルとデータベース、DNS切替まで |
| 2万円台 | 7件 | 1サイトに加えてメール移行、あるいは移行後の修正が付く |
| 3万〜5万円 | 2件 | 複数サイト、または移行と同時にサイト側の修正が必要 |
| 5万〜10万円 | 3件 | サーバーの設定作業を含む、または不正侵入の対応を伴う |
| 10万円以上 | 2件 | 数十サイト規模の一括移行 |
中央値は15,000円、最小は3,000円、最大は155,000円です。半数以上が1万円台に集まっており、3万円未満で32件を占めます。「1サイトを素直に移す」という依頼であれば、1万円台から2万円台に収まることが多い、というのが実額の分布です。
ただしこの39件は、それぞれの依頼が持っていた範囲に対する金額です。移行と同時にサイト側の不具合を直した案件、移行先の初期設定まで含めた案件、ドメインの移管手続きだけの案件が同じ枠に混ざっています。だから「サーバー移行の相場は15,000円」と読むのは間違いです。読み取れるのは、範囲を絞れば1万円台で終わる作業がある一方、範囲を広げれば10万円を超えるという、幅のほうです。
見積りを構成している要素を、作業単位に割る
金額の内訳は、どの見積書でもだいたい同じ部品でできています。違うのは、そのうちどれが入っていてどれが入っていないかです。
| 作業項目 | 実際にやること | 金額への効き方 |
|---|---|---|
| ファイルとデータベースの移設 | 転送、DBのエクスポートとインポート、URLの置換 | ほぼ必ず入る基本部分 |
| DNS・ネームサーバーの切替 | Aレコードとネームサーバーの設計、切替の実行 | 管理画面の権限で難易度が変わる |
| メールボックスの移行 | アカウント作成、既存メールの引き継ぎ、メーラー設定の案内 | アカウント数にほぼ比例 |
| ドメインの移管 | 認証コードの取得、移管申請、承認待ち | 金額は小さいが日数を食う |
| SSL証明書の再設定 | 新サーバーでの証明書取得と反映の確認 | 事前登録で済ませれば小さい |
| 移行後の不具合修正 | 移行で表に出た非互換の修正 | 事前に読めない。最大の変動要因 |
| 移行先サーバーの初期設定 | ドメイン追加、PHP設定、セキュリティ機能の設定 | 件数で見積もる |
このうち読めないのが「移行後の不具合修正」です。移行そのものの失敗ではなく、移行によってPHPのバージョンが変わり、それまで隠れていた非互換が表に出るというケースが大半を占めます。移行の見積りにこの項目が別立てで書かれているか、あるいは「含まない」と明記されているか。ここを確認しないまま契約すると、切り替えた翌日に費用の話が始まります。
実際の見積り、二つ
1サイトを移して13,000円
WordPressで作られた企業サイトを別のレンタルサーバーへ移した案件が13,000円でした。含まれていたのは、ファイルとデータベースの移設、無料SSLの設定、AレコードとMXレコードの設定、ネームサーバーの変更、そしてメールアカウント数件の新規作成と設定案内です。1サイトの移行としては標準的な範囲になります。
この案件で時間を食ったのはDNSでした。ドメインの管理会社によって、自社のDNSへ反映されるまでの速さがまったく違います。速いところなら自社DNSへ1〜2時間、全体へ行き渡るまで4〜5時間、遅くとも10時間ほどで落ち着きます。一方、自社DNSへの反映そのものが遅い管理会社もあり、その場合は3日程度かかる可能性を先に伝えておかないと、切り替え当日から「まだ変わらない」という連絡が続くことになります。管理会社がどこかで納期が変わるので、見積りの前に確認する項目です。
もう一つ、DNSがまだ新しいサーバーを向いていない段階で無料SSLを申請すると、ドメイン認証に失敗します。失敗の通知メールがサイトの持ち主へ直接届くため、「認証に失敗したというメールが届くことがありますが想定内です」と先に伝えておかないと、作業中に不安の連絡が入ります。
28サイトを移して155,000円
共用サーバーからビジネス向けのサーバーへ28サイトを移した案件が155,000円でした。内訳は単純です。ドメインとWordPressをセットで移すサイトが19本で1本あたり6,000円、ドメインの移行だけのサイトが7本で1本あたり3,000円、サーバー本体の設定が2件で1件あたり10,000円。合計して155,000円になります。
規模が大きくなるほど、この「単価×本数」の形が納得を得やすくなります。総額だけを提示されると高く見えますが、1本6,000円と言われれば妥当かどうかを自分の感覚で判断できます。逆に、数十サイトの移行を「一式」でまとめた見積書は、比較のしようがありません。
この案件では受注した初日に13ステップの手順書を出し、各ステップの影響範囲を明示しました。1から7までは稼働中のサイトに影響なし、8から11の間は投稿を止めていただく、10から11ではDNSの反映に24〜36時間かかる、という形です。止まる範囲と止まる時間を先に言うことが、大規模な移行では金額の説明そのものになります。
日程も分けました。系統ごとに移行日を2回に分割しています。障害が起きても影響が半分に収まり、1回目で分かったことを2回目へ反映できるからです。実際、1回目はSSLの反映遅延で表示できない時間が生じました。開始が16時30分、解消が17時37分です。2回目は移行前にSSLを登録しておく手順に変え、同じ問題は起きていません。
この規模では、契約状態そのものが制約になることもあります。新しいサーバーが試用期間のままだとメールアドレスの追加などに制限がかかるため、移行スケジュールを組む前に本契約を済ませてもらう必要がありました。改ざん検知のようなオプション機能が「1サーバーにつき1サイトのみ有効」という仕様だったことも、移行後に判明しています。移行に合わせてサイト側を直す部分の金額感はWordPressの部分改修は実際いくらかかるのか、実額の分布からのほうが近く、作り直しまで検討しているならWordPressサイト制作の価格帯と、その中身がどう違うのかを先に見たほうが判断が早くなります。
見積書のどこを読むか
見積書を比べるとき、金額の大小より先に見る場所があります。書かれていない項目を探すことです。
- メールを含むか。含む場合、既存のメールデータを引き継ぐのか、新しいアカウントを作るだけなのか
- ドメインの移管を含むか。移管にかかる実費が別なのか、込みなのか
- 切り替え中にサイトとメールが止まる時間の見込み
- 移行後に不具合が出たときの扱い。どこまでが移行費用の範囲で、どこからが別料金なのか
- 旧サーバーをいつ止めるか。並行して残す期間の利用料は誰が持つのか
もっとももめるのがメールです。方式は二つあります。新旧のアカウントを両方メーラーへ登録しておき、反映が終わってから旧を消す方法と、直接切り替える方法です。直接切り替えは手順が簡単ですが、およそ24時間はメールを受信できない時間が生じます。関係者の多い会社ほど、この時間の説明が抜けていると当日に問い合わせが集中します。安いほうの見積りがどちらの方式を前提にしているかは、書かれていなければ聞くべき項目です。
旧サーバーをいつ止めるかも、見積書には書かれないことが多い項目です。移行後1か月は残しておくことを勧めます。PHPやWordPressのバージョンが同時に上がっている場合、あとから見えない不具合が出たときの比較対象になり、データの取り出し元にもなります。すぐ解約すると、比べる相手がいなくなります。
移行後に「バックアップに失敗しました」という通知メールが届くようになった、という問い合わせも定番です。ほとんどはバックアップ系プラグインの通知で、保存先のパスやパーミッションが移行で変わったことが原因です。移行作業そのものの失敗ではありませんが、設定の見直しは必要になります。この種の後始末が費用に含まれているかどうかも、見積りの差の一部です。移行作業の内容をどこまで含めるかは、依頼の段階で言葉にしておいたほうが安全です。
複数サイトをまとめて移す場合は、情報が揃ったサイトから着手するのが現実的です。5サイト分で見積もったものの、情報が揃わず4サイトの実施になった案件もあります。サーバーやドメイン管理会社のログイン情報と、WordPressの管理者アカウントは別物で、前者を預かっても後者は分かりません。セキュリティプラグインでログイン用のURLが変更されている場合、そのURLが分からなければ管理画面にすら入れません。この確認が遅れると、そのぶん納期が後ろへずれます。サーバーの中で動いている業務システムごと作り替える話になる場合は、見積りの考え方自体が変わるため、業務システム開発の見積りは何によって決まるのか、実額で分解するで分けて扱っています。
よくある質問
相見積もりで金額が大きく違うとき、どこを比べればいいですか
作業項目の粒度です。1行で「サーバー移行一式」とだけ書かれた見積書と、ファイル移設・データベース移設・DNS・メール・SSL・移行後確認と分かれた見積書を並べると、後者のほうが総額は高く見えます。ところが前者の範囲が後者より狭いことは珍しくありません。含まれない作業は、当日か翌日に追加として出てきます。安いほうを選ぶ前に、含まれていない項目を一覧で書き出してもらってください。それが一番早い比較方法です。
自分で移行すれば費用はかかりませんか
作業自体は費用をかけずにできます。実際に費用が出るのは、失敗したときです。DNSの切り替えで丸一日メールが受け取れない、データベースの移設でURLが置換しきれず管理画面へ入れない、SSLの反映待ちの間サイトが表示できない。この状態からの復旧を依頼すると、最初から移行を任せるより高くつくことが多くなります。判断の材料は技術力ではなく、止まったときに何時間まで許容できるか、です。止まってはいけないサイトなら外へ出したほうが安く済みます。
見積りに「移行後の不具合修正」が入っていません。危ないですか
入っていないこと自体は普通です。何が壊れるかは、実際に新しい環境で動かすまで分からないためです。確認すべきは、そのときの扱いが決まっているかどうか。「移行作業が原因の不具合は無償、サイト側の非互換は別途見積り」のように線が引かれていれば問題ありません。何も書かれていない見積書だと、切り替えた翌日から交渉が始まります。
